立岩にて
 立岩でS氏を待っているとはるか彼方からようやくS氏が追いついてくるのが見えた。道の真ん中にかすかに写っているのがS氏。

 しかし、S氏の動きがおかしい。足を引きずるというかはっきり言って膝が上がっていない。いわゆる「旋回歩行」に近い歩様。
 ついに「ハンガーノック」発生か!?それとも熱中症か!?S氏の表情はといえば、ものすごくつらそうだ。というより、まるで仏像のような顔だ(元からか?)。こんな状態ではここから先に進むのは不可能かもしれない。まだ標高が最高の地点にはたどりついていないのだし。ここで少し休憩したら、引き返そうそう決心をかためはじめていた。

 ちょっと休憩しようと声をかけ、日陰に二人で座り込んだ。おそるおそるS氏の顔を見ると………。なんと、笑ってるじゃないか!!ついに壊れたか!?
 さりげなくハンガーノックの症状と熱中症の症状が出ていないかチェックしたが、全て問題なし。強いて言えば「バテ」の症状のみ。食欲がないのだそうだ。私はといえば、昼を過ぎてからずっと空腹感との戦いだったような気がする。この前の休憩時に食料を全部食い尽くそうとしてしまった(反省)。

 S氏の体調には問題がないようだ。先に進んでも問題はないだろう。出発、しかしいきなりS氏のスピードは遅い。


 今になってこの風景を見直すと、なんでこんな山の中にこんなに立派な護岸があるんだろうと考えてしまうが、現地ではまったく感動はなかった。むしろ「日陰ないじゃん」と心の中で愚痴っていた。
 しかし、このカーブを曲ると風景は一変する。そしてまた、道の進んでいる方向が大きく変化する地点だ。


 ご覧のようにこの地点は嶺を越える場所でもあるようだ。植生は明らかに変化しているし、自力(自転車)だけでこんなに風景に変化があるところまで登ってきたものだと思った。私は「煙となんとやら」なので、山の高いところは大好きだ。車ではよく高いところに行って、夜星を眺めたりするものだが、少なくとも車でないとこんな風景に出会うことはなかった。山登りする人は自分の足だけでこんな風景に出会うんだろうな、大したものだ。ナニ?自転車連れの方がスゴイって?


 自分が進んで行くべき方向はこんな風景だった。まだ登りが続いている。しかし塩那道路の最高地点はこの風景の中にあるはず!


 S氏も追いついてきた。二人でこの風景を楽しむ……余裕はない。まだ登りが続いていることにがく然としている(であろう)S氏。
 栃木県の調べによると、この付近がもっとも植生が破壊されており、また復旧に手間も時間もかかるであろう地点なのだそうだ。確かに標高は高いし、草木も背丈のないものばかり(私は詳しくないのでわからないが、高地の植生なのだろうか)。
 目の高さに雲が見える…。


 5分後、つらら岩に到着。塩原から26.3キロ地点だそうだ。

 これがつらら岩?


 ついに、ついに鹿の又坂に到着。というのもある情報によるとこの辺りが最高地点なのだそうだ。確かに少し先まで上っているようだが、もうそれも目と鼻の先で終わっている。
 ………しかしS氏はどこいった?


 振り返って目を凝らすとそこにいた(赤丸円内)。ここも今になって見直すと危険な場所だよなぁ。現場にいる時はそんなふうには感じなかったが。疲労で頭がいかれていたのだろうか?
 道を作ったせいなのか、それとも元々なのか、崩れている場所が多い。それなのに道路上には落石はまったく見られない。崩れているといっても安定しているのだろうが、保守もしっかりと行われている証拠だろう。


 目と鼻の先だと思ったが最高地点はまだけっこう先にあった。が、ここから先少々カーブしたところを越えると、一気に下りはじめた。あわてて戻り、最高地点(と思われる場所)でS氏を振り返って撮影。思わず「もうすこしだ!がんばれ!!」と呼びかけてしまった。


 S氏が追いつき、記念撮影。ひとりキャイーン(S氏撮影)。最後の大休止。食料を食べ尽くす(オイオイ)。しかしまだ(私だけ)満たされない、もっと用意しときゃよかった。


 ようやく最高地点にたどりついたが、時刻は16時近い。もしテントの用意をしていたなら、迷わず設営の準備をはじめていただろう。予定では最悪でも14時ぐらいにはこの地点を通過していたかったが2時間遅れ。日没まで二時間と少々。残りの距離を考えるとかなりの平均時速で下っていかないとマズイ。スタート地点に日没までに戻りたかったが、この時点でそれはもう不可能だと判断した。とにかくトラブルなしにこの山を下らなければ、それだけを考えた。

 

 次回、下山開始。そして日没。スタート地点に戻れるのは何時になるんだろう?

ちょっと次回の予告。
下りサイコー!!!

 

本レポートはフィクションであり、実在の地名や人名その他実在のものとは一切関係ありません。
また、このレポートに使用されている画像は特殊な方法によって作られたCG(コンピュータグラフィックス)であり、この画像と同様の行為を行った場合、生命を脅かす危険がありますので絶対におやめください。
なんちゃって…


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